SENDAI CITY LIFE MAGAZINE

仙台で暮らす、東北で生きる

【ランチ】仕事に忙殺された私を〈土産土法 さかな亭〉のふぐ唐揚げ定食が救ってくれた

仙台駅から歩いて15分。サンモール一番町から路地に入ったところに、文化横丁という飲み屋街がある。焼き鳥屋やバー、居酒屋などが立ち並び、夜になると賑わいを増す文化横丁だが、近隣にオフィスビルが林立していることもあって、ランチ営業を行うお店も多い。

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私は前職の時、この文化横丁からほど近いビルで働いていた。小さな会社だったので、社長によくランチを御馳走になった。ある日の昼前、社長が私にこう話しかけてきた。

「うまいふぐ食ったことあるか?」

「ええと、ないです」

「じゃあ連れてってやるわ」

そうして連れられて向かったのが、〈土産土法 さかな亭〉だった。

 

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ランチのメニューは、海鮮丼、サバの塩焼き定食、そしてふぐ唐揚げ定食。社長は迷わずに2人分のふぐ唐揚げ定食を注文した。


木を基調とした暖かみのある店内に、ふぐを揚げるジューッという音が響き渡る。私は社長と向かい合って、とても緊張しながら料理が運ばれてくるのをじっと待った。


思い返すと、とても大変な仕事だった。勤務時間のみならず、業務時間外や休日にもお客様からの連絡が入ってきて、とても心が休まる時間がなかった。新社会人で経験も要領も不足していた自分にとって、毎日ただただ自分の無力感に苛まれながら、あってはいけないミスを繰り返す悪い循環が続いていた。唯一の安らぎ時であるお昼の休憩も、社長を目の前にしては、一瞬も気が抜けない。唐揚げよ、早く揚がってくれ。この日々にも早く終わりが来てくれ。そんな風に思っていた。

 

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「お待ちどうさまでした!」

大きくごろっとしたふぐの唐揚げが、私の目の前にどうだ!といった風体で鎮座する。いただきます。微量のスパイスが混ぜられた塩をつけて、いざ、ひと口。う。うまい。肉厚なふぐを噛むと広がる幸福の味。レモンをかければさらに豊かに風味が広がる。それでいて、上品すぎず、ジャンキーすぎず、ちょうどいいバランスの衣がふぐをやさしく包んでいる。止まらない。ご飯が。ふぐを半分食べたところでもう茶碗が空になっているのを見かねて、社長が「俺、ダイエット中だから」と白米を茶碗ごと私に差し出してくれた。


最後のひと切れになって、思わず「ふぐ、なくなるんじゃない!」と思うくらいに、私はふぐの唐揚げの虜になっていた。この幸福な食事の時間がずっと終わらなければいいのに。ふたり分のご飯を食べ終えて、「おいしかったです、ありがとうございました」と言うと、社長が誇らしげな顔で、「な?」と言った。

 
社長には大変お世話になったものの、結局、私は退職をすることになった。とても大変な仕事で、何度も気持ちがばらばらになった。しかし、あの日々に得たものは決して少なくないと、〈土産土法 さかな亭〉のふぐ唐揚げ定食を食べるたびに思う。今でも時々、文化横丁にやってきては、ひとりで席に座り、ふぐの唐揚げを頬張って、「な?」と心の中で言う。つらく大変だった日々のことを思い出させるふぐの味は、すこしだけ苦く、とびきりおいしい。

 

〈土産土法 さかな亭〉の店舗情報

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〈土産土法 さかな亭〉

仙台市青葉区一番町2丁目4−8

TEL:022-265-6625

土産土法 料理日記