SENDAI CITY LIFE MAGAZINE

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柴田聡子『ぼちぼち銀河』

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『ぼちぼち銀河』は、柴田聡子さんによる前作『がんばれ!メロディー』から3年ぶりのフルアルバム。弾き語りを中心に活動をしていた柴田聡子さんが、バンド形態「柴田聡子 in FIRE」で制作した作品としては2枚目となる。

キャッチーなメロディーによって自身のポップネスの拡張を見せた前作と比較すると、今作は歌声と演奏ですべてをなぎ倒すような迫力を感じた。

まず、歌声が変わった。ややフワッとしていて高音の跳ね方が素晴らしかった以前の声から、高音の伸びが良く芯があって低音もハスキーに響くボーカルに変わっている。"ジャケット"のようなヘビーな楽曲でもバンドサウンドに負けない彼女の声の存在感。それにより、前作から一緒に制作を行っているバンドメンバーの演奏の良さがさらに解放されている。

表題曲"ぼちぼち銀河"では、荒ぶる譜割りに共鳴するように多彩なアレンジで岡田拓郎さんのギターが響き渡る。"旅行"でのイトケンさんのファンキーなビートも素晴らしい。かわいしのぶさんのベースも全編通してかなり前に出てくるようになった。「in FIRE」はもはやシンガーソングライターのバックバンドではなく、柴田聡子さんの才気に負けない演奏を見せている。これが今作の一番の聴きどころではないだろうか。

歌詞に目を向けると、aの母音が連なる"南国調絨毯"、oの母音が連なる"夕日"、「〜です」の連続が心地よい"雑感"など、押韻でリズムを作っていく楽曲が多いのが今作の特徴だ。この傾向は前作の中の"涙"でも見られたが、すっかり柴田聡子さんの得意技になった。

歌詞のパンチラインの多さは相変わらず際立っていて、<体の中の真っ暗なカーテン開けば いっぺんは親に見せてやりたい光景>("ぼちぼち銀河")という鋭いフレーズもあれば、<冷蔵庫の中こっち麦茶こっちそば茶まぎらわしい色>("ようこそ")という、いかにも柴田聡子さんらしい切り取り方の歌詞もある。そして、この歌詞が乗っているメロディーがまた複雑で、歌詞カードを見て初めてこんなことを歌っていたのかと驚かされる。一聴して演奏の良さを感じ、歌詞を見てまた楽しみ、と何度も聴いて楽しめるアルバムだ。

柴田聡子さんは今作のインタビューでこう語っている。

今まで、自分の好きな音楽と自分がやっている音楽ってなんでこんなにかけ離れているんだろう、って謎に思ってたんですよ。私はTWICEが好きなのに、なんで弾き語りしてるのかな?って(笑)

柴田聡子が明かす〈みんな人間やりすぎ〉の辛さ、そこから生まれた『ぼちぼち銀河』の希望 | Mikiki

自身のやりたいことを発揮できる能力・環境を得て、音楽性を拡張していく様子は、星野源さんが『YELLOW DANCER』からブラック・ミュージックのエッセンスを取り入れた流れに近い。今後の柴田聡子さんがどのように突き進んでいくかも楽しみだ。とはいえ、本人は歌いたいように歌って、行きたいところに行くだけなのだろう。その行く先が銀河であろうと、家の中であろうと。

‎柴田聡子の「ぼちぼち銀河」をApple Musicで


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