SENDAI CITY LIFE MAGAZINE

仙台で暮らす、東北で生きる

中合福島店(辰巳屋ビル)を歩く

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福島駅東口に降り立つと真っ先に見えてくる、10階建ての美しい建造物。福島が誇る老舗百貨店・中合が入居する辰巳屋ビルだ。

1973年に竣工され、地下1階から地上7階までは中合、8~10階はホテル辰巳屋として、長年福島市民に愛されてきた。ホテルも入居するビルだからこその高級感あふれる外観は、福島のシンボルであり、アイデンティティだ。

 

中合の歴史と福島駅前

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下から見上げると、その壮観さに圧倒される。

中合1830年に創業し、大正~昭和中期は大町(県庁、警察署近く)で営業していた。大町時代は屋上遊園地中合ミサイルタワーが人気を博した。その後、福島駅前第一市街地再開発事業によって、1970年代に栄町(福島駅前)への移転を決意。1973年に中合は現在の位置で営業を開始した。

福島駅前第一市街地再開発事業 - 福島市

しかし、新店舗の開店と同時期に第一次オイルショックが発生。消費が急激に落ち込み、業績が悪化。さらに、既存店舗の2倍以上の規模を誇る新店舗の設備投資負担も嵩んでしまう。現在の店舗は決して良い思い出だけではないのだ。

 

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ホテル辰巳屋の入り口。ホテルが併設された10階建て百貨店という規模は、東北では類を見ない。

当時の福島駅東口は、山田百貨店、コルニエツタヤ、エンドーチェーン、長崎屋といった大型の商業施設でひしめき合っていた。ライバルたちと中合は激しい競争を繰り広げる。

しかし、1990年代から中心市街地の空洞化と大型店の閉業が目立つようになる。

 

●1991年 エンドーチェーン福島駅前店 閉店

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跡地は街なか広場として暫定利用され、商業施設が建設される予定であったが頓挫。長年空地になっていたが、テナントビル「LAMP120」が2020年10月に開業する予定になっている。

 

●1998年 福島ビブレ(旧山田百貨店、ダックシティ山田) 閉店

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正確には曾根田(福島駅北)への移転。福島ビブレ(旧山田百貨店・ダックシティ山田)のあった平和ビルは中合二番館として2017年まで利用されていたが、建物の老朽化のため閉店した。一番館と二番館の間には連絡通路(Nロード)があったが、既に撤去されている。

参考:中合福島店二番館営業最終日(でぱあとまにあ)

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なお、移転後の福島ビブレは2002年に運営会社の経営破綻を受けさくら野百貨店福島店となったが、2005年に閉店。後継テナントとして曽根田ショッピングセンターが入り、現在の核テナントはダイユーエイト MAXふくしま。

 

●1999年 長崎屋福島店 閉店

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店舗跡は2002年にファッションプラザ レッツが開業、2008年に商業複合施設「AXC」として再オープンしている。コルニエツタヤ、エンドーチェーンなどが同じ交差点に集中していた。

 

●2002年 コルニエツタヤ 破産

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キャッチコピーは「愛の街角」。跡地には2階建てのテナントビル「アクティ21」が開業したのち、福島県立医科大学の保健科学部の建設予定地となっている。

参考:コルニエツタヤ(でぱあとまにあ)

 

現在の中合と福島駅前

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中合のある駅前通りはアーケードが架設されていたが、2017年までにすべて撤去された。

かつてのライバルが次々と姿を消していくなか、中合は山田百貨店の店舗跡を二番館として増床し、ダイエーの傘下に入り、酒田の清水屋や八戸の三春屋、函館の棒二森屋などを買収しながら必死に営業を続けていた。

しかし、中合二号館の閉店などもあり、売上はついにピークの3割以下に。周辺の再開発と建物の老朽化に伴い、2019年にホテル辰巳屋は閉館。そして、中合2020年の8月31日に営業終了することが決まった。 ただの閉店ではなく、廃業だ。146年の歴史に幕を下ろす。

福島の百貨店「中合」が8月閉店 売上、ピークの3割に:朝日新聞デジタル

「中合福島店」8月31日閉店 売り上げ低迷...146年の歴史に幕:福島民友ニュース:福島民友新聞社 みんゆうNet

福島駅東口地区第一種市街地再開発事業 - 福島市

  

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営業終了を告げる掲示物と、ご愛顧感謝セールの張り紙。

 

閉業間際の中合を歩く

最後の機会にと、福島駅に降り立つ。いきなり、中合の威風堂々とした風格に圧倒される。小さな窓がびっしりとある壁と、大きな看板。建物が高い。見た目以上に大きく感じる。

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中に入ると、中央にある4基並列エスカレーターがどっかりと場所を取っている。エスカレーターは貴重なスクエアレールの丸ボディ。青の手すりが上り、赤の手すりが下りという、なんとも美しいダブルクロス。もはや芸術品だ。

 

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手すりの色分けに美学を感じる、全透明丸ボディの4基並列エスカレーター。

 

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エスカレーターホールは大きな吹き抜けになっており、鏡張り。開放感が溢れている。

 

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非常に珍しい、スクエアレール。中合エスカレーターはすべてスクエアレールであり、エスカレーター好きにとっては素晴らしい場所だった。

 

外観も内装も、とにかく美しい。決して派手さはないが、全体的にシンプルで、強く、清らかだ。百貨店全盛の時代にあって、あえてこの武骨さを貫いたのだと思うと、中合の価値が良く分かる。来てみればわかる。すべてが尊い

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シンプルなフロアマップ。建物の大きさの割に、店内はあまり広くない。

 

けれど、正直に言うと、中合が廃業せねばならなかった理由も、足を運ぶと同時に分かってしまう。目玉になるようなものが極めて少ない。フロアの大部分を占めるような集客力の高いテナントがなく、百貨店ならどこも備えている生鮮食品売り場もない。書店や玩具売り場などもない。現在の店舗(一番館)だけではやや手狭な印象で、書店やカフェなどが入居していた二番館が閉店してからより厳しくなったのは確かだろう。 

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階段側に回ると老朽化が目立つ。

 

中合のある区画には、福島駅東口地区第一種市街地再開発事業によって大きなビルが数棟建つ予定だ。ここに中合があったということを、いつか誰も思い出さなくなるのだろうか。

中合閉店...福島駅前に「大きな痛手」 再開発設計4月から着手:福島民友ニュース:福島民友新聞社 みんゆうNet

JR福島駅東口に複合ビル3棟計画 26年度の開館目標 | 河北新報オンラインニュース

『福島駅東口第一種市街地再開発事業』 事業協力者に決定|野村不動産ホールディングス株式会社のプレスリリース

 

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何も買わずに出るのもと思い、ハンカチを買う。悲しいが、それくらいしか欲しいものはなかった。丁寧に包装紙に包んでもらう。女性の店員さんが「ありがとうございました、またお越しください」と言う。けれど、「また」は来ないのだ。外に出ると、心地よい風が吹いていて、しかし、それが空洞をより強く思い知らせていた。

 

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